絵は楽しく描こう!
わたしには、絵を描くときに、
これだけは守ろう!と決めていることがあります。
それは、「楽しく描く」ということ。
言いかえれば、満たされた前向きな気持ちで、
心をこめて描く、ということでもあります。
なぜなのか。理由はいくつかあります。
ひとつは、見る人に楽しんでほしいから。
楽しく描いた絵か、辛い思いをして描いた絵か、
投げやりな気持ちで描いた絵かは、
不思議なことに、見る人にはちゃんと
伝わってしまいます。
「辛そうだな」「投げやりに描いたな」と
わかってしまう場合もあれば、形を変えて、
別のメッセージとして受け取られることもあって
いろいろですが、ともかくネガティブな気持ちで
描いた絵は、負のオーラをまとっていて、
マイナスの空気がそのまま伝わってしまいます。
それが絵の不思議なところです。
逆に、見てくれる人のことを大切に思って、
心をこめて描いた絵は、やはりちゃんと伝わります。
部屋にあるだけで明るい気持ちしてくれて、
きょうも一日がんばろう! と元気になれたり、
仕事を終えて部屋に帰って来たときに、
「この絵を見ると癒されるなぁ」
と感じてもらえる、そんな絵ってありますよね。
そういった作品を描くためには、
描く人が、充実した前向きな気持ちで、
楽しく作品に向かうことが大切なんですね。
もうひとつの理由は、自分のためでもあります。
わたしは、何年か前、体を壊して、自宅から
ほとんど出ない生活を送っていたことがあります。
病院で検査しても悪いところはみつからず、
対策といえば、風邪薬をもらったり、
栄養のある注射や点滴を打ったりするぐらい。
辛くてしんどくて起き上がれないのに、
原因がまったくわからず不安な日々でした。
仕事も辞めて、好きでやっていたことも、
目標があってがんばっていたことも、何もかも
できなくなって、自分は何者にもなれない、
価値のない人間だと、落ち込むばかりでした。
絶望的な気分になったとき、ふと思いました。
そうだ、わたしには絵があるじゃない、と。
そして同時に、思い出したのです。
かつて絵を描いていたときに感じていた、
何ともいえない解放された気分を。
そして、最後の望みをたくす思いで、
再び絵筆を取ったのです。
じつは、体調不良の原因を、自分自身では、
なんとなくわかっていたんですね。
長年の疲労とストレスが積み重なって、
ついに身体も心も悲鳴をあげてしまったんだと。
だから身体が自然と、抑圧から逃れられることを、
探していたんでしょう。
だから、絵を描くときだけは、
自由に楽しくやろうと決めました。
うまいとか下手とか気にすることもなく、
誰に何と言われようと、手が動くままに、
好きなものを好きなように描いていこう、と。
たとえば、描きかけのキャンバスがいつも、
部屋にあって、毎日それを眺めながら暮らして、
気づいたときにちょっとずつ手を加えていく、
そんな生活がしたい、と心底思いました。
つまり、わたしにとって絵を描くことは、
自分自身を癒して立ち直らせること。
もっと言えば、自分が生きてゆくために残された
最後の手段だったわけです。
そして、実際にそんな生活を始めてみて、
わたしは、少しずつ健康を取り戻し、
立ち直ることができました。
最後にもうひとつ。
孔子の有名な言葉にもありますよね。
「何ごとも楽しんでやりなさい。
楽しんでやることで、思わぬ力が発揮されるものなのだ」
だから絶対に、絵は楽しく描こう、
そう決めているのです。