北村直登さんの絵の下地剤を使ってみた。

北村直登さんといえば、動物の絵をはじめ、かわいくてパンチの効いた作品で大人気の画家さんです。
https://naoto-kitamura.tumblr.com/

主に白い下地の上に、ラフな線描きで花や動物を描き、絵の具で色を付けて仕上げていらっしゃいます。

北村さんの作品を生で見たことはないのですが、ネットに上がった画像や印刷物からは、白いバックに凹凸のあるマチエールが見え、絵の具が乗っているところなども、マチエールに水分が滲んで、いい感じで濃淡がついています。

この下地剤は何を使ってるのだろう? と以前から思っていました。
ちょっと見た感じでは、モデリングペーストのようにも思えます。
モデリングペーストというのは、アクリル絵の具を使うときに、絵の具に混ぜたり、単体でペインティングナイフなどで画面に乗せてデコボコのあるマチエールを作れるメディウムで、石灰の粉でできているのですが、でもちょっとそれよりトロリとした感じもあります。

北村直登さんにチャットで質問してみました

その北村直登さんのライヴペインティングを、facebookのLIVEで見る機会がありました。
北村さんが、視聴者とおしゃべりしながら絵を描く、というか、正確には、北村さんが絵を描いている動画の上に、見てる人がスマホから書き込んだテキストがどんどん流れて、それに北村さんが可能なかぎり答えてくれるというものです。
北村さんは、たくさん重ねた小さめのパネルのようなものに、線描きを入れては次、色を塗っては次、というふうに、ものすごいスピードで何枚も何枚も描いてゆきます。おしゃべりしながらですから、これはすごい。
まず、すでに白っぽい下地を塗って乾いたものの上に、水性ペンかボールペンのような細いペンを両手に一本ずつ持って2本で線を描く、というミラクルな手法を使っておられたのですが、描くたびにペン先からゴツゴツガサガサと音がするんですね。

ん? 硬いとこに描いてる??
木製パネルかな。何だろう、この下地剤。

視聴者の書き込みはものすごい量がどんどん流れてゆくのでちょっと気後れしましたが、どうしても知りたかったので質問してみました。
「支持体は、パネルですか?」
答えは「キャンバスです」。
でもキャンバスに描いてるような音じゃないんですね。
だったら、この硬そうな下地に秘密があるのだなと思って、また質問してみました。
「下地剤は何をお使いですか?」
しばらく経って返事がきました。
「下地はね、内装材を使ってます。紙に水彩で描くような感じを出したいので」
わたしだけじゃなく、ほかの方々もいろいろ会話されてるので、なかなか順番は回ってこないのですが、思い切って聞いてみました。
「何という内装材でしょうか?」
しばらくして、答えてくださいました。
「エマルナ、というんです。一般にはあんまり売ってなくて、一斗缶で買う感じですね」

エマルナ!

大切な制作の秘密をこんなにかんたんに教えてくださるとは、なんていい人なんでしょうか!
もちろんすぐメモしました(笑)。
しかも、なんと、内装材とは!!
アクリル絵の具の下地として使えるんだから、水性なんですよね。
北村さんのおっしゃる紙に水彩絵の具で描けるような感じというのは、バックの処理なんかによく使ってらっしゃる、ウォッシュみたいに水で薄く溶いて、ムラムラを生かした感じにもできる、ということだと思います。
キャンバスなのに、紙に水彩絵の具で描くような感じで描けるって、いいですよね。

北村直登さんの下地剤をゲット!

北村直登さんの使ってるらしい下地剤ですを、探しに探して、やっとみつけました。
ネットで検索してもなかなかヒットせず、なんとまぁ苦労しました。
これです。たぶん(笑)。
「キクスイ タイル・エマルナ」
ほんとに一斗缶でしか売ってなくて、しかも重い! 玄関からアトリエまで運んで腰痛めそうなぐらい重かったのですが、なんと20キロあるそうです。
お値段は、この量で、送料入含めて2500円ぐらい。あとから検索したら、同じ商品で、もっと安くて2000円以内のもヒットしたんですが、まぁそれにしても、だいたいこれぐらいで買えるみたいです。

画材として考えれば、かなりリーズナブル! モデリングペーストだと、いつも買ってる900ml入りが同じぐらいの値段なのですが、一斗缶の容量=18リットルなので、ざっと計算しても20分の1!! これはすごい。
建築用ということは、使う量がそうとうすごいことになるんでしょうから、これぐらいじゃないと合わないのかもしれませんね。
キャンバスなら、かなりの枚数塗れそうです。

タイル・エマルナと書いてあるので、これはもしかしたらタイルの目地を作る材料なのかなと思っていたら、塗料会社に勤めていた友人が教えてくれたのですが、内装用というより(わたしが聞き間違えたのかもしれないのですが)、外装用の仕上げ用塗料なのだそうです。
外壁を重ね塗りしたいちばん上から、スプレー状に吹き付けてデコボコの壁を作るものだということでした。
つまりこれ自体が、外壁で固まってタイルの役割をするんですね。

ビルなんかの建築現場を通りかかると、よく、シートのようなもので囲まれている中で、コンプレッサーの音がしていて、シューっと音がして、なんだか刺激のあるにおいがしていることがありますが、中できっと作業員さんがこれを吹き付けてるんですね。
わたしはもちろん、キャンバスに塗るので手作業です。
さっそく使ってみたいと思います。

北村直登さんの下地剤を使ってみた

さて、北村直登さんの親切な一言から探しに探した「キクスイ タイル・エマルナ」をついに使ってみました。

まずは、使用前に安全シートを取り寄せてよく読むようにと注意書きがあるので、ネットで検索してダウンロードします。
かなり長くいろいろ書いてありますが、要約すると、吸い込まないように、目に入らないように、手などにつかないように気をつけなさい、ということでした。
つまり有害物質なんですね。
とりあえず、ゴム手袋とマスクをして、作業を始めます。

まずは開封しなければいけませんが、いきなりこれが難関でした。
開かないのです。。。

通常、一斗缶って、丸い小さい穴が開いていて、ギザギザのある蓋がついていて、真ん中をペコっと押すと開いて開くじゃないですが。
この一斗缶は、それよりもかなり大きな丸い穴があって、フラットな蓋がついてるのですが、この蓋がどうやっても開かない。
最終的にはマイナスドライバーをねじこみ、それでもだめなのでバールをてこにして持ち上げようとしたんですが、どうも溶接してあるみたいで、起こしたところから変形してきました。
たぶん、この穴のところを開けるのは無理だ。
しかたないので、考えに考えて、昔使っていた缶切りを探して、缶詰のようにちょっとずつキリキリと開けてみました。一斗缶の缶は、缶詰の缶よりはそうとう分厚いし硬いし頑丈そうなので、もうほんとにちょっとずつちょっとずつです。

運べなくなると困るので、持ち手がついてる部分を対角線状に残して、角のところだけ、キリキリキリと開けて、どうにか持ち上げてめくります。
中を覗いてみると、いっぱいまで入ってると思っていた塗料は、3分の2ほどでしか入ってませんでした。黄色い透明な液体が上に浮いていて、下に白い物質が沈んでいて……つまりかなり分離しているようです。

これ、混ぜないとダメだろうな。

おそるおそる、ゴムベラをつっこんでかき回してみますが、とにかく重くて、とても上から下まで全部均一にまぜることはできません。あきらめて、塗りながら混ぜることにして、ともかくパネルの上に出してみました。

今回はテストも兼ねているので、乾いた後の強度なども見るために、作品で使うよりは大きめ、うちにあったパネルF50号とB1に、1枚ずつ塗ることにしました。
北村直登さんはキャンバスに使われていましたが、パネルにも使えるかどうか見たかったのもあります。

出してみると、塗料というよりは、接着剤みたいな感じです。

とにかく分離したのが均一になるように、板の上ですりつぶして混ぜながらのばします。
ちょっと刺激のあるにおいがするので、吸い込まないように気をつけなくてはいけません。

ものすごい刺激臭が部屋中に充満……

さて、あとは乾いて状態を見るのですが、乾燥する段階で、もうひとつ問題が。
目に染みるようなものすごい刺激臭が、家中に充満してきたのです。
酸っぱいような、すごいにおい。
家中の窓を開け、玄関を開け、換気扇をつけて換気しましたが、なかなかおさまりません。
塗っているときもにおいはしていましたが、揮発するときは比べ物にならないくらいすごいです。

対策を別の友人が教えてくれました。液体の表面にラップを張る、または濃度が変わってもよければすこし表面に水を張っておく、のだそうです。
缶の隅っこを切っただけで、中に手も入らないので、表面にラップを張るにはガバッと全部開けなくてはならないため諦めて、水を少し入れてみることにしました。
ついでに、蓋の上からではありますが、ラップを装着。

ちなみにこの友人は建築関係者なのですが、この一斗缶についても教えてくれました。
わたしが蓋だと思っていた大きな穴は、中の液体を出すためのものではなく、缶に液体を入れるときに空けた作業上の穴で(だから溶接してあった)、通常、使う人が開けるときは、専用の缶カッターのようなもので全開にして、中身は残さず全部使い切るのだそうです。

なるほど。。。
専門家に聞いてみるものですね。

F50号とB1パネルに塗りのばすのにほぼ一日かかってしまったので、あとは後日、様子を見ることにします。
疲れた(笑)。