複合的表現Ⅱ、授業史上最大のインスタレーションかも!

複合的表現Ⅱは、武蔵美通信の授業の中でも、とても得るものの大きかった科目です。わたしの「美術」とか「作品」というものに対する考え方や姿勢を大きく方向づけてくれました。
スクーリングを受ける前は、いったいどういうことになるのかまったく予想がつかず、未知の分野なので気後れもしていたのですが、授業を受けた感想を一言で言うと、「大変だったけど本当に楽しかった!」この言葉に尽きます。達成感も成果も無限大に大きくて、たとえば卒業後にアーティストとして一人で活動をしようとしたとき、大きな指標となって自分を支えてくれる、そんな大切なものを受け取ることのできた授業でした。

受講:2017年夏期スクーリング 8月8日(火)~13日(日)

▼シラバスの科目概要はコチラ▼
https://cc.musabi.ac.jp/campus/wp-content/uploads/sites/2/2018/01/2017_fukugoutekihyougen2.pdf

インスタレーション作品を制作する

武蔵美通信の『複合的表現』はⅠとⅡがあり、スクーリングは夏期のみ。だいたいお盆前後あたりの暑い盛りに、ⅡとⅠが6日間ずつ続けて開講されます。なぜかⅡが先ですが、Ⅰを先に受けるか同時に履修しないと、Ⅱは履修できません。
ちなみに『複合的表現Ⅰ』は箱の中に自己の世界を構築するというもの。いわばこれまで二次的表現しか勉強してこなかった学生が初めて三次元の立体表現をするという、立体への入門的な科目でした。
『複合的表現Ⅱ』は、それがさらに発展して、空間を使った表現を行うというもの。スクーリングでは、いわゆるインスタレーション作品を制作します。
毎年の作品を見ていると、その規模の大きさから、何人かのチームで制作しているように見えるのですが、作るのは一人一作品です。大きなものを持ち上げたりとか、ちょっとここを誰かに押さえててもらいたいとか、一人では物理的に難しい場合などは、空いてる人にちょっと手を貸してもらったりはしますが、基本的には、自分で考えた自分の作りたいものを、自分一人で作り上げます。
わたしが作った作品はとにかく大きかったので、あとで画像や動画を見せると、何人で作ったのかとよく聞かれるのですが、一人です(笑)。

持参物冊子の項目の注意点

武蔵美通信別冊『〇〇年度 スクーリング持参物』冊子に書かれている持参物の中で、1日目にマストで必要なのは、考えをまとめたりラフを描いたりするためのクロッキー帳と描画材(わたしは鉛筆と色鉛筆)ぐらいでした。定規やカッター、セロテープなども記載してありますが、使う人は使うかもしれない、というぐらいのことです。
本制作である立体制作に使用する材料についても、まずはどこでどういうものを作るか、始まる前の段階ではまったくわからないので、作るものが決まってから購入してもじゅうぶん間に合います。記載してあるように、一日目にはそろってなくても大丈夫です。
ひとつだけ、用意するものの中に「インクジェット写真用紙L版サイズ20枚程度」とありますが、これは買うのを待った方がいいかもしれません。わたしは初日に間に合わせようとわざわざ家電量販店まで行って用紙を購入して持参したのですが、なんと学校で用意されたプリンターが特殊な規格だったために、一般のプリント用紙が合わず、まったく無駄になってしまいました。規格に合うプリント用紙は事務局で用意されていて、使いたい量をその都度購入しながら使う、という状況でした。注釈ぐらいつけておいてほしいと思いますが(笑)。
他の科目でも似たようなことはありましたが、『スクーリング持参物』冊子に書かれている持参物は、実際授業に持って行ってみると、説明を聞くまで買わなくてよかった、というものがけっこうあったりするので、用意できないものがあっても、あまりナーバスにならなくていいかと思います。
また、学習指導書は持参物に書かれていますが、教科書は書かれていません。結論からいうと、授業では使わなかったのですが、わたしは、教科書自体まったく目を通してなかったので、知識ゼロではさすがにまずいと思って、授業前にあわてて家から宿泊先に送ってもらいました。それで、前夜に予習のため読んだので多少安心感はありましたが、結果的には、読んでいかなくてもまぁ支障はなく、6日間の授業では一度も開きませんでした。このあたりは、先生によって違うかもしれませんが、参考までに。

授業のスケジュールと進み方

スクーリング会場は、わたしのときは10号館が使用されました。デザイン系の教室がたくさん入っている建物です。
10号館の全容はこんな感じ。正面の柱がシンボリックな、素敵な建物です。

一階の一部屋が作業部屋で、一人に一つ机が割り当てられ、ここがベースとなります。朝来たらここに荷物を置き、机の上でできる細かい作業をしたり、伝達事項や出欠確認もここで行われます。

それと別に、10号館の中で自分の作品を設置する場所、いわゆる「現場」を持ちます。で、ベースと現場を行き来しながら作業を進めます。

授業のスケジュールはざっくりこんな感じです。
1日目 前提講義。プロ作家のインスタレーションや、前年までの生徒作品の動画などを見ながら、インスタレーションとは何かなど、制作の説明を受けます。
その後、みんなで会場を見て回り、場所と作品のイメージを何となく決めてゆきます。

早い人から、作品案とラフスケッチを先生にチェックしもらい、使う場所も、(人気のある場所は重なるので)話し合ったり抽選したりしながら、折り合いをつけて決めてゆきます。ラフスケッチのOKが出た人から制作に入ります。
2日目~5日目 ひたすら制作。
6日目 講評会の時間まで、ひたすら制作します。夕方前頃から、全員で皆の作品を見て回りながら講評会を行います。講評会後、すべての作品を壊して撤収し、ゴミ焼却場へ運びます。

自分の作品を展示する場所を決める

1~2日目でまず最初の難関が、作品を設置する場所を決める、ということでした。もちろん、そこにどんなものを作るかということとセットで案を出します。
10号館という限られた建物の中で、(当時は)50人近くが制作物を展示するので、これはと思う場所は人気があって希望者が殺到します。たとえば入って正面の階段奥にあるこのスクエアの吹き抜け部分なんかは、二階のテラスから一階に繋がっていて、見上げても見下ろしても、形も空間も光の入り方もとても魅力的なため、当初は10人ぐらいが希望していました。

いい場所を選べばいい作品が作れそうだし、こだわりたいところですが、それにしても多すぎますよね。わたしは早々に諦めて、他の空いていた場所で2案考えました。
その1)前庭の芝生にプールを作る。
その2)玄関の柱を利用して大きな木を作る。
担当の先生がとても熱い方で、「俺が責任取るから、プールを作るなら地面を掘ってもいいぞ」とまで言ってくださったのですが(もう一人の先生はもちろん反対……笑)、最終的に木を作ることに決定。芝生の前庭もとても美しくて、ほかの抽選で外れた人たちがエリアを分けて希望していたため、ここを一人で全部使いたいとはとても言えなかったからです(笑)。
正面玄関の柱を選んだのは、この柱が10号館の正面にあって、建物の顔的存在感があること。にかく目立つし、遠くからでもよく見える(通学時に門を入ってゆくと目にとまる)ので、ここに自分の作品があれば映えるだろうと思ったこと。でも一番の理由は、大きすぎて歯が立たないためか、この場所を誰も希望していないからでした。

インスタレーション作品の制作過程

さて、そんなわけで、ここがわたしの現場となりました。たくさんの人が通るのでちょっと恥ずかしいですが、光が当たって明るいし、広々しているし、制作をするにはなかなか気分のいい現場です。

めまいがしてくるような高さです。これを見上げて、しばらく途方に暮れてしまいました(笑)。

まず買った材料はこんな感じ。すべて武蔵美学内の世界堂で購入しました。
●クラフト紙ロール……これがメイン素材。荷造り用の包装紙ですが、耐水性もあり、めったなことでは破れずかなり丈夫です。
●アクリル絵の具……着色用。せっかくなので好きな色を2色。ターレンス・アムステルダムのバーミリオンとキナクリドンローズです。
●ガムテープ……クラフト紙を貼るので、クラフトガムテにしました。

目安も何もつかないので、とりあえず作業しやすい大きさに切ってみます。

で、木肌に見えるように手で絞ってシワを寄せていきます。
ひたすら切っては絞ってシワを寄せ、をくり返す単純作業。
手が痛くて真っ赤(笑)。このあと、手の保護のために軍手を購入しました。

最初は手探り状態で、まず段ボールで柱をくるみ、そこに作った素材を貼り付けていきました。

で、やっとこれぐらい。

ここに、アクリル絵の具で色をつけていきます。

お弁当とかサンドイッチのパックをとっておいてパレットに使用。
筆洗はペットボトルの上を切り取って作った容器です。2色しか使わないので、色によって分けました。筆を洗うというよりは、乾燥防止用ですね。

ところが、ここで問題が発生。シワを入れたクラフト紙を貼ってから色をつけてゆくと、絵の具がぽたぽた垂れてきて、床などを汚してしまいます。最初は段ボールの切れ端などを敷いてたのですが、位置が高くなってゆくと、だんだん周囲に散らばるようになり、その都度あわてて濡れ雑巾で絵の具掃除をするはめに。
それで、シワを寄せた紙に先に絵の具で色をつけておく方針に手順変更しました。
まず、バーミリオン。

ある程度乾いたら、キナクリドンローズ。

貼るまでに絵の具を乾かさなくてはいけないので、これはこれで大変。とにかく量が多いので、現場と言わず作業室の周りと言わず、あらゆる場所に並べて乾かします。

乾くまでの間、ディテールを遊んでみたりしました。
コブを作ったり、

ツルを入れてみたり、

ちょこっと根っこを生やしたり。

だんだん作品らしくなってきました。

さて、この作品で一番の課題であり、毎回先生に確認されていたのが、「いったいどの高さまで作るか」ということ。
学校の管理室で借りられる脚立は、最大で3メートル。柱の高さは、10メートル近くあるでしょうか。手の届かない高さの部分はどうやって作業するか? 
とりあえずギリギリ届くところまで、先っちょは棒を使ったりして貼っても、ここまでが限界でした。

再び、現場で作品を見上げながら、プランを熟考。で、思いついたのが、長い枝を作って上階の窓から下げ、その先を幹とつなげる、という方法でした。
先生に相談して、上階の部屋に入れるかどうかも捜索。3階のすぐ上の部屋はデザイン科の教室なので、授業や研究で使用されています。
最終的には先生が交渉して下さり、作業の間だけカギを開けてもらえることになりました。

ただ、それでも枝はかなりの重さになります。
中に、細くて丈夫な麻ひもをガムテで貼って仕込み、補強したらどうかと考え、麻ひもを購入。

枝ロール(笑)を2つ抱えて、鍵を借り、部屋に侵入!

ここで麻ひもにした成果が出ました。窓に挟み、閉めて施錠すれば強力に固定できます。

万が一すべり落ちても落下することのないように、紐の先をデスクの足に固定しておきました。

下部を幹に麻ひもで結びつけて、繋がりました! 感動の瞬間です(笑)。

かなりの高さを出すことができましたが、縦に長すぎてなんか寂しい。それで、2階から横にも枝を伸ばすことにしました。
この部屋なら、作品展示場として開放されていたので、午後4時頃までは開いていて自由に出入りできます。
同様にして、窓に麻ひもを挟むようにして、2本を設置。

上が充実してくるとしたが寂しくなってきたので、残りのクラフト紙をありったけ使って、根っこを生やすことにしました。

先生によると、「この作品は、ぼくが教えた中でも市場最大だなぁ」だそうです。
やったぁ! 目立てた!!(ここは福岡人気質)。良くも悪くも、爪痕を残せたのはよかったと思います(笑)。

とにかく暑いし、肉体労働なので、体力勝負。
作業スタイルもこんな感じ。タンクトップ、ジャージの短パン、首に巻きタオル、髪は縛ってなりふり構ってられない状況です。

毎日、栄養ドリンクを、朝、昼、夕方の3回飲んで乗り切りました。

複合的表現Ⅱ スクーリング作品 完成動画

撤去開始してからハッと思いついて撮ったので、一部すでに破壊していますが(笑)。

複合的表現Ⅱで得たこと

インスタレーションは、空間の中に創作物がどのように存在するかを問う芸術です。
立体物を作るので、彫刻科の先生が指導してくれますが、まず空間(場所)があり、その中に制作物がどのように存在し、周囲とどう調和するかを全体で考えなくてはなりません。そのものを置く場所だけでなく、光と影など様々な要素も、そこに行きつくまでの動線も、その作品を見る人がそれまでにどんなものを目にするかも考えます。
このトレーニングをすることで、わたしは、素材を自由に使って、何にもとらわれず制限なくどこまでも創造を広げてゆくことを学び、この世界の視界に入るすべてのもの、光や空気も含めた、見る人を取り巻くすべてのものが展示と関わってくることを知りました。
たとえば個展をするとき、ただ絵を壁にかけて並べるのではなく、入口を入ったところから、壁や天井、部屋の奥行など全体を含めた空間を意識するようになり、会場にちょっとした立体物を作ったり、展示全体が視覚的にどのような効果を持つかまで総合的に考えて、あるいは展示場のある建物の外から中へ入るときの印象とか、部屋に行きつくまでの建物の廊下の様子とか、そういったことも自然に頭に入れて、展示を企画するようになりました。
わたしの作った作品は造形としてはまだまだですが、この空間の中でこの大きさに挑むことで、ちょっとうまく言えないのですが、芸術とは、作品とは、この大きな世界の自然の中で生まれ、この世界と調和して生きてゆくものであるということを、ごく自然に受け入れられるようになったように思います。そのことによって、枠や殻にとらわれがちだった自身の可能性も、無限に信じられるようになりました。
これはとても大きな財産となりました。
そして、美大で美術を学ぶということはこういうことなのだと、実感を持って噛みしめることができたのです。